FEATURE

FEATURE #2 “EXPEDとスリーピングマットの軌跡”

2001 / ODYSSEY ~スリーピングマットへの追求~

これはEXPEDとスリーピングマットのお話です。
20世紀の終わり、アウトドア愛好家たちはたった2種類のスリーピングマットから1つを選ぶしかありませんでした。
薄いクローズドセルか、はたまたそれよりもほんの少し厚みのある自動膨張タイプ。どちらも冷たく硬い地面から身を守るのに十分な快適さと断熱性を備えてはいませんでした。

そして2001年、EXPEDは革命的な製品を世に送り出しました。
そう、全くもって新しいスリーピングマットのカテゴリー“ダウンマット”を創ったのです。
従来のマットよりも温かく、軽くてコンパクトでした。しかし、ここで歩みを止めずこのマットをブラッシュアップするため、私たちはスリーピングマットの“温かさ”を測定、正確に決めるためのR-value(R値)テストを他に先駆けて行うことにしました。

それから月日は流れ、R値の計測は一般的になりました。そして2020年ついに、アウトドアギアメーカーの仲間たちはスリーピングマットのR値の国際同一基準化(ASTM規格)に同意しました。その新基準は光栄なことに、私たちEXPEDとスイス連邦材料試験研究所(以下、EMPAと呼ぶ。)との研究が基盤となっているのです。

Why is R-value Important? – R値が重要な理由-


EXPEDの創設者、AndiとHeidi Brunの新婚旅行での一枚。ある寒い夜の睡眠が、スリーピングマットのR値開発につながりました。

 

私たちがなぜ温かいスリーピングマットへこだわるのか?
その答えは肌寒いカナダの荒野での一か月に及ぶ、1981年のユニークなハネムーンにまで遡ります。

私たちEXPEDの創始者であるHeidi(ハイジ)とAndi(アンディ)は自分たちだけで楽しめる時間、冒険を求めてスイスを離れました。キャンプから離れて滞在していたある時、-40℃の中を8mmの薄さのクローズドセルのマットで10日間も過ごしました。少なくとも快適とは言い難い夜でした。その経験からAndiの頭の中に何かが芽生え、20年経った今でも極限の環境で使えるスリーピングマットの開発を続けているきっかけとなったのです。

ここで話を進める前に、R値とは何なのか、なぜ大切なのかを明確にしておきましょう。
まず、R値とは熱抵抗(Thermal Resistance)の基準であり(故に記号にRを用いる)、一般的には建設業で用いられます。例えば家の断熱材。その性能はテストされR値という数字で表されています。これにより簡単に断熱材の比較をすることが出来ます。熱伝導への抵抗として測定され、数値が高ければ高いほど熱を保つ効果があります。これだけでも、R値は異なる素材の断熱性を比較するための優れた方法であり、大切だということがお分かりいただけるでしょう。

Andiはハネムーンでの経験から、ダウン入りマットの特許を取得し、彼のアイデアをアウトドアの世界で証明することに挑戦し始めます。しかし、マットを初めてお披露目した展示会では、非公式ではありながら最もひどい製品に送られる、“Lemon Award”を送られてしまったのです。(しかし、2002年のフリードリヒスハーフェンでの見本市で公式の“best-of-show Outdoor Award”を勝ち取りましたけどね!)Andiは諦めそうになりましたが、スイス人が皆志高くプライドを持って仕事をしているように、彼もまた挑戦することを選びました。早速彼はEMPAにコンタクトを取りました。EMPAにはスリーピングマットの熱抵抗の基準を作るのに完璧となる、厳しいドイツの基準で測定をする装置を所有していたからです。

THE FIRST TEST ~初めてのテスト~


当時の測定結果と東部、ザンクト・ガレンニアあるEMPA内の写真。チューリッヒのEXPED本社からたった1時間とR値測定技術向上のために完璧なロケーションでした。

 

ASTM規格が国際化されるはるか前の2001年、私たちはダウンマットの初めてのテストを行いました。その結果が1.7 m2 × K / W及びR値9.5というとんでもない数値だったということを手紙で知ったのです。最終的には私たちはダウン量を調整し、R値8を目標とし、達成しました。
これは20年経った今でも、別の研究所でもほぼ同じ結果が得られます。

EXPEDが行なった初めてのR値テスト以来、多くのブランドがインサレーション入りマットの開発を行いました。アウトドア愛好家たちがスリーピングマットを簡単に選べるようにするために、R値テストの基準作りが必要ということに気がつきました。なぜなら、独自の基準でテストをするブランドがあればEMPAを使うブランド、勝手に作ってしまうブランドさえあったからです。
この基準作りもスタートは素晴らしかったのですが、それぞれの考えがあるギアメーカー達の理解を得ることは至難の業でした。しかしこの新基準こそ、売上重視のマーケットや低い数値より高い数値の方が良しとされるマーケティングの偏りをなくすための唯一の手段だと確信していました。そして、その日のためにEXPEDは常に自主的にテストを続けました。

そして、2020年ついにEXPEDをはじめアウトドアギアメーカーの仲間たちと規格設定機関ASTMとが共同でスリーピングマットのR値計測を新基準“ASTM F3340規格”を設定しました。

今までの歴史を思い返すと、私たちEXPEDはR値のテスト結果をアウトドア愛好家・アウトドアギアメーカーたちと共有できる事を誇りに思います。

THE FUTURE OF R-VALUE ~R-Valueの未来~


EXPEDのR値と温度域設定は20年にも及ぶフィールドでの経験と研究所での測定に基づいています。

 

これがR値の起源と意義、そして新しい業界基準についてのお話でした。
さて、この先はどうなるでしょう?

誤解のないようにしたいのは、新しい基準はスリーピングマットのR値そのものしか測定しません。使用に適した季節や限界温度、その他詳細に関しては、経験に基づく各ブランドの解釈により自由に表現できます。

Andiは約20年にわたる測定と観察とユーザーからのフィードバックによりR値と限界温度を関係させる彼独自の方程式を発達させてきました。故にそれを踏まえ、私たちはスリーピングマットのR値と、温度域と快適な睡眠の複雑な関係性についてさらなるリサーチをしていきたいと考えています。

新しいASTM F3340規格はスリーピングマットを買う人々、マットで寝る人々にとって大きな躍進です。EXPEDはその発展中で先導的役割を担えたことを誇りに思うと同時に、次の20年もアウトドアでの睡眠がより良いものになることを楽しみにしています。

おまけ HOW R-VALUE IS TESTED ~R値のテスト方法~


GS香港(検査、検証、試験、認証の会社)でのテストの様子。この新基準用テスト装置はEXPEDが今まで行なってきたテスト装置ととても似ています。

 

最後にR値のテスト方法を簡単にご紹介します。
テストでは、マットレスを2枚の特別な測定用プレートの間に挟みます。実際の環境に似せるために1つは冷たい地面、もう1つは温かい人間の体という想定のもと、上下のプレート温度を設定します。そして上側のプレートが一定の温度を維持するのに使用したエネルギーを測定します。また、上側のプレートの圧によって作用される力や、マットの空気圧のようなその他いくつかのパラメーターの定義も必要です。
誤解のないようにしたいのは、新しい基準はR値をどのように測定するかを定義づけるだけであり、屋外で使用する際の適正な温度を測定するためのものではありません。
使用に適した季節や限界温度、その他詳細に関しては経験に基づく各ブランドの解釈により自由に表現できます。

ぜひ、新しく基準化されたR値を元に、お気に入りのスリーピングマットを見つけてくださいね!

P.S.
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この表はEMPA方式とASTM方式との計測方法の違いの中からいくつかピックアップしたものです。

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SGS香港による新しいASTM基準でのテスト結果をこちらからご覧になれます。

 

FlexMatPlus はこちら(PDF)

 

 

FlexMatPlus はこちら(PDF)

 

 

FlexMat_0 はこちら(PDF)

 

 

DownMat XP 9 M はこちら(PDF)

 

 

DownMat UL & HL Winter はこちら(PDF)

 

 

SynMat UL & HL Winter, SynMat 9 & XP 9 はこちら(PDF)

 

 

AirMat UL & HL はこちら(PDF)

 

 

SIM UL 3.8 & SIM Lite 3.8 はこちら(PDF)

 

 

DownMat 7 & XP 7 はこちら(PDF)

 

 

SynMat 7 & XP 7 & 3-D 7 はこちら(PDF)

 

 

MegaMat 10 & SIM Comfort 10_0 はこちら(PDF)

 

 

MultiMat はこちら(PDF)

 

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